断熱と時代

断熱と時代

断熱とは

家を建てる上でとても大切な要素の一つである断熱性能、文字通り熱を断つと書き外部と内部との間に熱のやり取りがないことを断熱と言います。
断熱性能が高いと家の外と中とで全く違った温度環境を作ることができ、夏は涼しく冬は暖かい家を作ることができるのです。

 

家づくりを考え始めた方なら必ず断熱と言う言葉を目にしたことがあると思いますが、なぜ断熱と言うものがあるのでしょうか。
過去の事例から昨今の状況、そして将来的にはどうなっていくのかを見ていこうと思います。


目次

断熱について

改めて説明しますが断熱とは外部と内部との間に熱のやり取りがないことを指します。

 

つまり、
夏の場合は家の中の涼しい空気を外に逃がさない、外の暑い空気を中に入れない。
冬の場合は家の中の暖かい空気を外に逃がさない、外の寒い空気を中に入れない。
と言う目的を果たすために断熱を行います。

 

そして、断熱を行うには断熱材と言うものが必要になり、断熱材の素材や取付工法等含めると非常に多くの種類があります。
メーカーによって材料や工法に良し悪しがありますが、目指すところは一緒です。
家の中を快適にする。そして、健康的な住環境を手に入れる。これが断熱の目的です。

 

※島野工務店の断熱については別記事「島野工務店の断熱」をご参照ください。

 

その目的を達成するために、様々なメーカーは自社の断熱性能をアピールし、ローコスト住宅メーカーもハイコスト住宅メーカーも高断熱を謳い、営業マンは自社の断熱性能は素晴らしいと勧めてくるのです。
私も住宅営業時代には自社の断熱性能についてアピールをしてきましてた。
事実、少し昔の住宅と比べて昨今の住宅の断熱性能はローコスト住宅、ハイコスト住宅共に格段に上がっています。
その為昔の家と比較してしまえば断熱性能の優位性を簡単にアピールできるのです。

 

意外かもしれませんが、断熱については歴史が非常に浅くまだまだ発展途上のエリアです。

 

例えば、自動車については1903年に愛知県が「乗合自動車営業取締規則」を制定し免許証の発行がスタートしました。
続いて1907年に警視庁が「自動車取締規則」を発表し、1919年には「自動車取締令」が施工されました。
そして、1960年の「道路交通法」でほぼ今の形になったのです。

 

しかしながら、断熱の歴史は1979年に公庫仕様書(今で言うフラット35)に「断熱」について初めて記載されたのが始まりです。
そして、公庫融資で断熱が義務化されたのが1989年となり、まだまだ非常に若い分野であることがわかります。

 

断熱の重要性と今後の断熱を考察するうえで、歴史を学ぶという事は非常に重要になってきますので次の章では断熱の歴史について解説していきます。

断熱の歴史

日本の断熱については世界情勢と密接に関わっています。
断熱について考えるきっかけとなったのが、1973年の第一次オイルショックと1979年の第二次オイルショックです。
オイルショックとは、中東での武力的情勢悪化により石油の輸出に制限がかかりエネルギー価格が高騰してしまった事を言います。

 

その為、限られた資源の中如何に少ないエネルギーで生活するかを求められる世の中に変わっていったのです。
いわゆる「省エネ」です。

 

それでは、省エネを達成するためには何をしなければいけないのでしょうか。
最新のデータになりますが、平成24年の経済産業省のデータによると夏の家庭でのエネルギー消費の58%がエアコンになります。

 

 

ご存じの通り、日本の白物家電は世界トップクラスの性能を持ち省エネ性能についても頭一つ抜き出ています。
しかしながら、如何にエアコンの省エネ性能が優れていたとしても断熱性能が十分でない住宅で使用する場合、常にフルパワーで使わなければならずまったくもって省エネ運転を行うことができないのです。

 

オイルショック当時、日本国内でのルームエアコンの普及率が1970年代には数%だったのに対し1980年代には40%を超える勢いで普及していきます。
エネルギー価格が高騰している中ルームエアコンの普及率が一気に伸びた為、住宅の省エネ化が急務だったのです。

 

その為1979年に省エネ法が制定され、住宅の旧省エネルギー基準「等級2」ができたのです。
また、等級2に満たしていない住宅を等級1と呼ぶようになったのです。

 

1992年には国連総会で気候変動に関する国際連合枠組条約が採択され、世界は地球温暖化について考えるようになり省エネがより注目されることになりました。
そして同年、住宅の省エネルギー基準が改正されました。 (新省エネルギー基準:等級3)

 

また、1997年には有名な京都議定書が採択されたのです。
92年の国際連合枠組条約では各国に対して具体的な数値目標が設定されませんでしたが、京都議定書では先進国各国の温室効果ガス排出量削減目標が定められました。
もちろん日本も例外ではなく、1990年の水準から6%削減することを約束しました。

 

そして、1999年に「次世代省エネルギー基準:等級4」が制定されました。

 

また、そこから太陽光発電の普及や更なる省エネ性能を持つ住宅が普及し始めゼロエネルギーハウス(通称ZEH)が出てきました。
それだけではなく、更なる省エネを求め民間団体の「Heat20」基準や地方自治体の基準「鳥取基準等」が立ち上がり、国としても「等級:5」、「等級:6」、「等級:7」と新たな基準を打ち出し2050年のカーボンニュートラルに向けて舵を切ったのです。

 

 

図:各年と出来事のまとめ

歴史から学ぶこと

ご存じの通り、昨今の世界情勢はオイルショック時と非常に似ています。
いえ、状況はそれよりも悪いかもしれません。
2019年から流行した新型コロナウィルスを発端に各国の非常事態宣言、寒波によるアメリカ不可抗力宣言、2022年の上海ロックダウン、ウクライナ戦争等など、世界のサプライチェーンは混乱を極めました。
それによる歴史品不足、材料費の高騰、物量費の高騰が発生し日本だけではなく世界経済にも大打撃を与えたのです。
日本国内でも1ドル150円に達し、生活必需品だけではなく電気代等のエネルギー費に加え住宅ローンの金利も上がっていったのです。

 

そして、それらは本当にこれから落ち着くのでしょうか?
実際に原油価格のここ50年の価格の推移を見ていこうと思います。

 

原油価格(WTI)の推移(長期チャート)

出典:かぶれん

 

ここから読み取れることは、原油の価格が非常に上がっているという事です。
もちろん波はありますが、オイルショック以降オイルショック前の価格に戻ったことは一度もありません。

 

そして、注目すべきは2020年の価格です。
新型コロナウィルスにより世界中が緊急事態宣言を発生し、世界が止まった2020年前半の価格ですら第一次オイルショック時と同等の価格なのです。
つまりここから価格は上がることはあるにせよ、下がることはないという事がわかります。
それだけではなく、これからは台湾有事のリスクが非常に高まってきます。
その為海外の調達リスクを考え地産地消(Local for Local)を進める企業も出てきています。
海外の安い労働力を捨て安定供給に舵を切るという事です。

 

上記の事から今後の物価やエネルギー価格は上がっていく見通しであるという事がわかります。

 

先の章でも述べましたが、日本の断熱は世界情勢と密接に関わっています。
今後の住宅には物価の高騰やエネルギー価格の高騰に耐えられる仕様が求められる事は間違いない事実です。
これからはより一層の省エネが求められ、省エネを達成するには電気代の6割を占有している空調費用を抑えなければならないのです。つまり、断熱性能を高めていく必要があるのです。
それだけではなく、カーボンニュートラル達成のためにもエネルギーを抑える事は重要であり、それを達成するために国としては断熱等級を一新したのです。

 

歴史は繰り返します。
オイルショック時から京都議定書に掛けて国は断熱性能を上げ省エネを求めてきました。
それと同じことがこれからも起きようとしています。
コロナショック、ウクライナショックからカーボンニュートラルを目指し国としてはより一層の断熱性能を求め、より一層の省エネを要求してきます。

まとめ

株式の格言に「国策に売りなし」と言う言葉があります。
日本の賃金が上がらない日本が弱くなったと言われていますが、それでも日本は世界3位の経済大国であり個人や企業では太刀打ちできない非常に大きい存在です。
そのような大国がカーボンニュートラルを達成する為に政策や税金をどんどん投入しています。

 

住宅と言うのは非常に高い買い物であり、断熱性能を求めるとなると費用も非常に高額になります。
ですが、今後間違いなく上がっていくエネルギー価格の事を考えると省エネを達成する事ができる高断熱住宅と言うのはどうしても必要であり、国としても進めている国策です。
今でこそ高断熱住宅は少数派ですが、将来的に高断熱住宅はどんどん増えていき国の政策も高断熱住宅に向けたものが出てくるという事は今までの歴史が証明しています。
国策に逆張りして断熱性能を下げ初期費用を抑える方法ももちろん有りかと思いますが、私としては国策である断熱性能を求め、将来の為に先行投資をすることは一つの回答かと考えます。

 

もちろん、それだけではなく高断熱住宅は夏は涼しく冬は暖かい快適で健康的な生活を送ることができる住宅です。
家はなかなか買い替えることができない高額な買い物です。
後悔の無いよう過去を振り返り未来を見つめ直す事も必要ではないでしょうか。